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現場の支持を得てERPを導入するために押さえておきたいポイント

ERPを導入する主な目的として、業務の効率化やスピード感のある経営などがあげられます。確かに企業全体で見れば、ERPの導入はプラスです。しかし社内の各部門や従業員一人一人の観点から見ると、必ずしもよいことばかりとはいえません。新たなERPの導入により不利益をこうむる人は少なくないため、現場から抵抗を受ける場合もあります。

今回は現場がなぜ反対するのかを述べた後、現場の支持を得てERPを導入するために押さえておきたいポイントを解説します。ERPの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

ERPの導入に抵抗する人はたくさんいる

ERPは経理部門をはじめ、幅広い部門が関与し、影響を受けます。このため、ERPの導入に抵抗する人も思いのほか多数にのぼる可能性があります。

ここではどのような方がERPの導入に抵抗する可能性があるのかについて、解説していきます。

経理担当などの事務スタッフ

ERPを最もよく使う方は、経理担当などの事務スタッフといえるでしょう。これらの方はシステムの機能や使い勝手により、仕事の効率が大きく左右されます。システムが変わっただけで夜遅くまで残業などということも、あり得ない話ではありません。

また企業は間接部門の人員を最小限に抑える傾向があるため、どのスタッフも忙しいことが実情です。このため「ただでさえ忙しいのに、これ以上余計な仕事を増やしてくれるな」とばかりに、反対される可能性もあります。

システム部門

ERPの導入には、システム部門の抵抗を受ける場合もあります。その理由には、以下の項目があげられます。

  • システムが変わることでリプレースの手間が増え、オペレーションも変わる
  • 今まで安定して動いていたのに、システムトラブルの発生が懸念される
  • セキュリティ上の問題や、合理化による人員削減を見越して抵抗する

システム部門の協力がないと、新しいERPの導入は難しくなります。そのため懸念される事項をピックアップし、不安を解消する努力が求められます。

一般職員や上司

ERPのなかには、経費精算や交通費精算の伝票を現場で入力できるものもあります。この場合は承認作業を行う点で、一般職員だけでなく上司も関わります。現場で働く方は経理部門やシステム部門よりもはるかに多いわけですから、もし「新システムが使えない」ことになると御社全体の業務に影響をおよぼしかねません。

このため伝票を現場で入力させる場合は、現場で勤務する方の理解も欠かせません。

ERPの導入に反対する理由

ERPの導入は企業にとってメリットがあるにもかかわらず、さまざまな方から抵抗されうることがわかります。これらの方は、どうしてERPの導入に反対するのでしょうか。主な理由を3点取り上げ、解説していきます。

業務フローや画面の変化に戸惑う。また、今までのやり方を変えるのが面倒臭い

システムを変えると、大なり小なり以下の変更があるものです。そもそもシステムを変える目的は「今までの課題を解決すること」が多いため、以下のような変更はどうしても避けられません。

  • 画面のレイアウト
  • 操作手順や、画面に表示されるメッセージ
  • 業務フロー

一方で利用者の側から見ると、「同じ業務を行うだけなのに、新しい操作方法を覚える手間が余計にかかる」ことになります。加えてどう操作すべきか、戸惑う場面もあるでしょう。一時的にせよ利用者に大きな負担がかかりますから、新しい操作方法を覚える手間を嫌がり、抵抗する方も出てくる可能性は大いにあります。

この抵抗を抑えるために、アドオンやカスタマイズで対応する妥協案を考える方も少なくありませんが、決して良い解決策とはいえません。なぜなら導入時はもちろん、ランニングコストやバージョンアップ時のコストもアップするためです。加えてシステムの規模が大きくなるため、不具合が起きるリスクも高くなりがちです。

新しいシステムの品質や、セキュリティが心配

新しいERPを導入した場合は、以下のような事態に遭遇する可能性もあります。

  • 今まであった機能がなくなったり機能制限がかかったりするなど、不便になった
  • システムトラブルに巻き込まれる
  • 処理スピードが下がってしまう

利用者のなかには、過去に上記にあげた事態に遭遇した方もいると思います。もしこのような方が今のシステムに問題を感じていない場合は「今のままでいいのに」と考え、新システムに対して抵抗するかもしれません。

またセキュリティに対する懸念も、新システムに抵抗する理由の1つです。特に今まで利用したことがないベンダーやサービス事業者の場合は、漠然とした不安をもとに抵抗される可能性もあります。「絶対に大丈夫だと言えるのか」などと詰め寄られると、なかなか有効な回答がしにくいものです。

自分の仕事がなくなる

ERPを導入する主な目的には、業務の効率化があげられます。たとえば今まで1日かかっていた業務を2時間で終わらせ、品質も向上できれば、企業にとってこれほど嬉しいことはありません。業績も上がるわけですからこぞって賛成するところですが、なかには反対する方もいます。それは、今までその業務を担っていた人です。

もし自分の仕事が効率化されれば、余った時間で別の仕事を命ぜられることになります。そればかりでなく今まで担っていた仕事自体がなくなり、転勤を命ぜられる方もいるかもしれません。一方でERPの導入後、給与がアップするとは限りません。そのため自分の立場を守るために、必死になって抵抗する方も出てくる可能性があります。

ERPの導入を成功させるコツ

これまで解説した通り、ERPは企業にとってはよいことであっても、不利益を受けるおそれがある関係者は思いのほか多いものです。そのため安易な気持ちで導入を進めると誰にも使われないシステムとなったり、導入自体が頓挫することになりかねません。

一方で進め方を工夫することで、現場の支持を得ながらERPを導入することも可能です。ここでは無事にERPの導入を成功させるコツを4つに分けて、解説していきます。

現状を正しく分析し、目的を明確にする

ERPの導入を成功させるためには、以下のように目的を明確にすることが欠かせません。これは「今のシステムがサポート切れを迎える」という、消極的な理由でも同様です。

  • ERPの導入により、解決できる業務的・経営的な課題(人員削減や適正化なども含む)
  • ERPの導入により実現したい新たな業務、あるいは戦略的な課題

目的を明確にすることにより、ERPによるシステム化の範囲も明確にできます。これは費用対効果を考える点で、極めて重要です。もしベンダーやサービス事業者に言われるがまま、あれもこれもと余分な機能を搭載してしまうと、初期費用だけでなくランニングコストも増大することになります。これを防ぐには現状を正しく分析した上で、優先順位をつける作業が欠かせません。

また現場の支持を得られない場合やさまざまな機能を求める場合、現行通りを基本とする場合は、アドオンやカスタマイズを施すことも多いでしょう。この場合は外部システム側と連携する機能の仕様が複雑となります。そのため保守や運用に労力がかかり、トラブルも増えるおそれがあります。もちろんコストも増大することになるでしょう。

経営層が覚悟をもって取り組む

ERPは経営に直結する、重要なシステムです。その一方、全社規模で関わるシステムでもあります。従って導入を経理部やシステム部門に任せきりにした場合は、他部門からの抵抗により計画が頓挫しかねません。

従って導入にあたっては現場任せにせず、経営層も当事者意識を持ち、「必ず導入を実現し、経営に役だてる」という強い意志が求められます。経営層が強いリーダーシップを示すことで、社内の抵抗があってもそれに屈せず、ERPの導入を成功させることができます。逆に経営層が事なかれ主義を示してしまうと、導入が失敗するおそれは高くなるでしょう。

経営の観点だけでなく、現場へのメリットも含めて検討する

ERPの導入を成功させるには、「経営にメリットをもたらす」だけでは不十分です。現場にいる一般職員や管理職の協力を得るには、現場が抱える課題を解決し、生産性を向上する一助としなければなりません。

このためERPの導入を検討するならば、初期の段階において現場が抱える課題をヒアリングすることが欠かせません。もちろん選定にあたってはできるだけ多くの、また重要な課題を解決できるERPを選ぶことが求められます。すべての課題を解決することは難しいですが、経営や業務改善につながる課題については、積極的に向き合うことが必要です。

キーパーソンの説得や、利害関係者による会議体をつくる

どの部署にも役職者以外に、業務を行う上で重要な役割を担うキーパーソンがいるものです。ERPの導入を成功させるためにはこのような方に接触し、説明をした上で協力を得ることが望ましいといえます。キーパーソンを味方につけることができれば、その部署で反対意見が出ても、部署内で鎮めてくれることが期待できます。

また、利害関係者による会議体をつくることも有効です。反対する方の理由と意見に丁寧に耳を傾け、可能な限り不安などネガティブなものを払拭することが、導入を成功させる大きなポイントになります。

まとめ

いかがでしたでしょうか?ERPは全社に影響するシステムであるだけに、「経営にプラスになる」「良いシステムだ」というだけの理由で導入を進めることは、困難が伴います。現場の支持を得てスムーズに導入するためには、現場が抱えるであろう不安や課題を先読みし、先手を打って対応することが欠かせません。あわせていったん導入を決めたならば、必ず成功させるという強い意志とリーダーシップも求められます。

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